和紙に万年筆や筆ペンで書いた際に、にじむ紙とにじまない紙があります。
また、同じ紙なのに部分的ににじむ箇所が出たりします。
いったいこの”にじみ”はどうして起こるのでしょうか。
原因1.原料によるちがい
和紙は繊維でできており、繊維と繊維の間に無数の隙間があります。
この隙間が、各原料の違いにより大きさが変わります。
隙間が大きいほど水分の吸収がよくなります。
一方、隙間が狭くぎっしりしたものは水分を吸収しづらくなります。
雁皮は一般的に隙間が少なく、麻などでできた紙は隙間が大きいため、にじみやすくなります。
また、にじみが勢いよく伸びていく場合があります。
これは、水分が表面張力によって縮まろうとする方向に力が加わっていくことで起きます。
隙間が縮まっていき密度が高くなるところまで水分が進んでいくため、にじみが伸びていきます。
原因2.墨汁やインクの濃さや量による限界
和紙はもともと親水性が高いため、インクの水分が多いと和紙が吸収してしまいます。
墨は植物油を含んでいることで、にじみを抑えています。
硯で墨をするのが甘いと、水分が多くにじんでしまいます。
また、和紙にも吸収耐えられる量があります。
墨汁やインクで書いている際に、一定の場所で止まっていると吸収限界量を超えてしまい
溢れ出しにじみにつながります。
迷いのない筆運びが、にじみを抑えることにつながりそうです。
原因3.制作工程で使う薬品
和紙を作る工程で、楮であれば「楮煮」という繊維束をほぐれやすくするために原料を煮る工程があります。
この工程において、紙原料の繊維以外の非繊維物質(不純物)を水に溶ける物質に変えるために灰汁や炭酸ソーダなどのアルカリの弱い煮熟剤を使います。
アルカリの弱い煮熟剤のため、非繊維物質がある程度残ることで繊維間の隙間が少なくなり、にじみも少なくなります。
紙を漂白することを目的として苛性ソーダを使う場合がありますが、アルカリ性が強いため非繊維物質が分解され溶け出してしまい、隙間の多い紙となってしまいます。
このような紙の場合、にじみを調節するためにサイジングといった、隙間を耐水物質で塞ぐことを行います。
紙の表面を施すことを表面サイジングとよび、耐水物質には、ニカワ、ロジン、デンプンのほか合成樹脂なども使われます。
そのほかにも、「塗工」とよばれる中国では石灰や貝を、アラビアでは小麦の煮汁を表面に塗ってにじみを抑えていたようです。
日本は、この「塗工」はほとんど行われてなかったようです。
それは日本人特有の美意識にある“にじみ”や“かすれ”を美しいと感じていたからではないでしょうか。
書物は、綺麗にまとめたいものですが
にじむことを楽しみ、どの字がにじんだかで自分自身への感じ方も楽しめるかもしれません。
どうじても滲むのが気になる方は、親水性が高い和紙に対しては水性ではなく油性のものを使用することをお勧めいたします。