暮らしのなかで便利な道具が多くあります。
時間や手間をかけずに目的を達成できるものや、色々な機能をもって皆さんの生活を快適にしてくれています。
便利で快適にしてくれる道具ですが、
日本人が使う「道具」という言葉には、字のとおり「道に具(そな)える」という意味があります。
この「道」を歩んでいくためにサポートするのが道具とされています。
海外から注目されている日本人の「道」の精神
オリンピック競技になっている日本生まれの武道「柔道」。
今では世界200カ国・地域が国際柔道連盟に加盟しており、スポーツの加盟国・地域数において陸上やサッカーにに次いで8番目に多い競技であり、フランスでは日本の柔道競技人口をしのぐ人気の武道となりました。
柔道は、柔術に対し精神修養の要素が加えられたものになります。
単に体を鍛えるトレーニングをして相手に勝つことを重視するのではなく、そこに内なるものを育てる「道」の精神が宿っています。
「道」の精神 守破離
世界を驚かす日本のものづくり
柔道以外にも茶道、華道、芸道、剣道、弓道そして武士道などがあります。
また、道具をつくる職人の世界に道があります。
中国では書法であったのが日本では書道に変わりました。
もともと「道」は、道教・儒教などの中国思想から来た言葉になります。
日本人は、心と体を整え、調和された状態へと導くための価値観や行動様式を「道」として体系化してきました。
その道を歩むためにサポートするものが道具になります。また、その道具をつくるのが伝統工芸です。
伝統工芸は自然の恵みをいただいて、人の技により道具をつくり上げていきます。
そして、その道具をつくるためにも道があります。
伝統工芸を継承していくための現場では、まずは基本となる「型」を教え、体得したうえで「技」を磨きあげていきます。
また、この工程において心と身体、モノが同調した状態により無駄のない状態から研ぎ澄まされたモノをつくることができるとともに、つくり手の価値観や行動を新たな一歩へと成長させていきます。
この「道」を表した言葉が、守破離です。
この守破離は、もとは千利休の訓をまとめた『利休道歌』にある「規矩作法 守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」を引用したものとされています。
修業における段階を示したもので、
- 「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。
- 「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。
- 「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。
を表します。
この「道」には終りがありません。
終わりがないからこそ、自己鍛錬する姿勢や対峙する人やモノを敬い、世代を超えて受け継がれています。
道具に宿る「道」の精神
道具から感性を磨くための選び方・使い方へ
道具は使い手の道を歩んでいくためのサポートをするだけではなく、つくり手にとっての「道」がカタチになったものでもあり、
道具は使い手にとってもつくり手にとっても、自らの感覚を研ぎ澄ませ、成長させるものになります。
古くから現代にかけても作られてきている道具は伝統工芸品として残され進化してきています。
伝統工芸は合理的な製造方法とは程遠い時間と手間がかかり、コスト面から言うと合わないと言われるかもしれません。
しかし、道具とは人の感性に刺激を与え、進化させ続ける終わりない道の探求に通じています。
道具を使う皆さんにも必ず「道」が存在するはずです。
その「道」を歩むためにも、使う道具がつくりあげられてきた「道」を知ったり感じてはいかがでしょうか。
とくに伝統工芸における道具は、自然からの恵みと人の感性や感覚から作られています。
その用途に通じる道具を作っている職人と自然が同調し感性を研ぎ澄ましたなかで作られた道具と同調することで、使い手の感覚や感性がより磨かれることでしょう。
それは、料理で言えば食事のお茶碗を陶器にしたり、刀鍛冶がつくる包丁を使うのもいいでしょう。
また、書くということであれば、手紙や日記、ノート、絵を和紙に書いてみてはいかがでしょうか。
世界では日本の便利よりも手仕事の価値が重んじられているところがあります。
便利なものは一瞬にして用を足してくれますが、それは自分の感覚や感性を育むものではありません。
日本人の「道」の精神でいう工程を楽しむことで、精神的に豊かな、成長の見える暮らしができるのではないでしょうか。